RehaVRインタビューのイメージ画像
体のリハビリだけでなくこころの“元気”にも

RehaVRの可能性

鏑木悠生(かぶらぎ・ゆうき)

silvereye(株)マーケティング部リーダー。
理学療法士。

理学療法士養成校を卒業後、高知県の慢性期リハビリテーション病院で勤務。
約5年、入院患者の機能訓練に取り組む。その後、大手リゾート会社でマーケティングの実務経験を積み、フィットネスクラブが運営する機能訓練特化型通所介護へ。個々の利用者に合わせたリハビリメニューを考案し、利用者、ケアマネジャーから5年間で高い評価を受ける。
2020年、リハビリテーションへのIT活用に興味を持ち、silvereyeへ。
RehaVRのさらなる活用に知恵を絞る。

VRで景色を見ながら、楽しくリハビリに取り組めるRehaVR。
使い方により、様々な可能性を秘めています。
第1回となる今回は「こころの“元気”への可能性」について、ご紹介いたします。

RehaVRの可能性のイメージ画像です

飽きずに楽しく自転車運動に取り組んでもらう
それがRehaVR、最初の開発コンセプト

VRヘッドマウントを装着すると、目の前に広がるのは夕日が沈みゆく東尋坊や、スペイン・バルセロナの教会、サグラダ・ファミリアへの道などの美しい景色。

足こぎペダルを踏むことで、さらにその先の景色が展開していく。それが、VRリハビリツールRehaVRです。

飽きずに楽しく自転車運動に取り組んでもらおう。RehaVRは、そんな思いから開発され、今では約400ものVR散歩コースが揃いました(2023年9月現在)。

リハビリ意欲を引き出すだけでない
RehaVRの使い方にも注目

要介護の高齢者にとって、改善効果が見えにくい「現状維持」のリハビリは、決して楽しいものではありません。そこでRehaVRは、「楽しく取り組むためのリハビリツール」として開発されました。しかし、RehaVRの機能は「リハビリツール」だけではありません。

私は以前、機能訓練特化型通所介護事業所で勤務していたとき、利用者のリハビリ意欲を引き出すために、個々の利用者に合わせて様々な「仕掛け」を行いました。

例えば、剣道の有段者の方に、新聞でつくった棒でバランスボールをたたく運動をしてもらったり。小脳の運動失調がある方の手指のリハビリで、おもちゃのお札100万円をできるだけ速く数えるタイムアタックをしてもらったり。工夫すれば、やる気を引き出す方法はいくらでもありますが、セラピストが工夫のアイディアを捻りだす時間が限られているのも現場の課題の1つだと思います。

そこで、デジタル技術の力を活用すれば、工夫の幅を楽に広げることが出来る。RehaVRもそんなツールの一つ。

しかし、身体機能のリハビリや業務を効率化する目的だけのために、RehaVRの導入をお勧めしているのではありません。目を向けていただきたいのは、五感を刺激するコミュニケーションツールとしての使い方なのです。

RehaVRの可能性のイメージ画像です

通所介護でリハビリを担当していた頃、ハロウィーンの時には、水戸黄門の扮装で利用者のボクササイズの相手役に。楽しくリハビリに取り組んでもらうためのアイデアの引出はいくらでもあるんです。

RehaVRの可能性のイメージ画像です RehaVRの可能性のイメージ画像です

「秋田犬と散歩」のコンテンツでは、秋田犬に見立てたぬいぐるみをなでてもらうことで触感が刺激され、よりリアルな体験につながる

触感、風など五感に訴える刺激で
RehaVRでの散歩をよりリアルに

VRの醍醐味は、目の前の景色の中にまるで自分自身がいるかのような没入感。RehaVRはそれに加え、展開していく景色を介護職など周囲の人とiPadによって共有できるという特徴があります。

東尋坊のVRで、崖に立ったとき扇風機の風にあたれば、体験はよりリアルになるはず。秋田犬と散歩するVRで犬の動きに合わせて、ぬいぐるみをなでてもらったり、神戸の夜景のVRを介護職と手を繋いで一緒に散歩したりするのもいいと思います。身体的接触によるオキシトシンの分泌は心をリラックスさせる働きがあり、心理的援助としても効果的です。

音や匂いなど、VR体験の深みを増し、こころへの刺激になる工夫は他にもいろいろ。RehaVRは、こころの”元気“につながるコミュニケーションツールとして、もっと活用できるのです。

そして、さらにこころを“元気”にするために、silvereyeがこれから取り組もうとしているのが、RehaVRの「回想法」への活用です。

過去を思い起こし、懐かしんで
こころを“元気”にする「回想法」とは

回想法は、もともとは高齢者を対象に人生の歴史や思い出を、受容的で共感的な良い聞き手に傾聴してもらう心理療法。過去の記憶、体験を思い起こすこと、懐かしむことは、感情を刺激し、認知機能を活性化することが期待されています。

今は、回想法を集団アクティビティとして行っている高齢者施設なども増えてきました。写真や音楽、食べ物など五感に刺激を与えるツールなども用いて語り合い、「共に過去を懐かしむ」「同じ時代を生きた者同士で思いを共有する」ことなどを目的に行われています。

映像の世界に没入する、RehaVRのリアルな体験を回想法に活用すれば、写真などのツール以上に強い刺激となると考えられます。『ここを旅行したときは…』『この町に住んでいた頃は…』など、VRでの散歩によって呼び起こされた懐かしい思い出を語ることは、こころにポジティブな刺激を与えることにつながります。

「だからこそ、RehaVRをもっと回想法に活用していきたい」

RehaVRの今後の展望として、個々の利用者の人生を振り返るオリジナルツールの制作を視野に入れ、こころの“元気”をさらに引き出していくことを考えています。

RehaVRの可能性のイメージ画像です RehaVRの可能性のイメージ画像です

言葉のやりとりだけでなく、懐かしい物、写真、音楽などによって五感を刺激すると、古い記憶を呼び起こしやすい

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回想法で人生を再評価し、
「いい人生だった」と思えるように

集団アクティビティとしての回想法と違い、専門的な心理療法として行われる回想法は、一対一で行います。聞き手に語りながら人生を振り返り、人生で起きた一つ一つの出来事の意味を改めて考え、自分の人生を再評価していくのです。この人生の再評価に、RehaVRを活用していくことを、思案しています。

老年期のリハビリのゴールは、エリクソンが提唱した老年期の発達課題(コラム参照)である『自己統合』だと考えています。老年期は、脳梗塞などの大きな病気に加齢が重なり、健康レベルを若い頃に戻すことはできません。

そうした喪失体験の中では、絶望や孤立感、孤独感などのネガティブな感情を味わうこともあるでしょう。高齢者がそうしたネガティブな感情に傾いていくのを食い止め、『いい人生だった』と受け止めるのに有効なのが、回想法だと思うのです。

エリクソンの発達課題

心理学者のエリクソンは、人間は生涯をかけて発達していく存在であると考え、0歳の乳児期から65歳以上の老年期までを8段階に分けて、それぞれの段階での発達課題を示しました。エリクソンが示した老年期の発達課題は、「自己統合」です。

心身機能の低下や親しい人との別れなど様々な喪失を体験する老年期。過去には思い出したくない苦い経験もあるでしょう。それでも、培ってきた英知を持って人生の最終盤を歩み、自分の人生を「いい人生だった」と肯定的に受け入れることができれば、「自己統合」は達成されるのです。

RehaVRを「前意識」に働きかけ、
「自己統合」につながるツールへ

精神分析学者のフロイトが示したこころの仕組みを見ても、回想法は「前意識」というまだ意識されていない記憶や感情が、「意識」に上がるのを助ける働きがあると考えています。

回想法で『前意識』から『意識』への心の動きを活発にし、意識化された記憶や感情、体験を認識し、言葉で表現して聞き手に語る。そして、聞き手がその語りを受け止め、その体験や記憶の意味を、語った高齢者がより深く考えられるようなフィードバックをする。この繰り返しで、高齢者は自分の人生の価値を再評価できるのではないでしょうか。

RehaVRによる具体的な回想法ツールについては、現在はまだ構想の段階ですが、今後、『自己統合』に活用できるよう開発を進めていく考えです。RehaVRの今後に、ぜひ注目していただければと思います。

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フロイトによる「こころの仕組み」と回想法

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飽きずに楽しく自転車運動に取り組んでもらう それがRehaVR、最初の開発コンセプト

VRヘッドマウントを装着すると、目の前に広がるのは夕日が沈みゆく東尋坊や、スペイン・バルセロナの教会、サグラダ・ファミリアへの道などの美しい景色。

足こぎペダルを踏むことで、さらにその先の景色が展開していく。それが、VRリハビリツールRehaVRです。

飽きずに楽しく自転車運動に取り組んでもらおう。RehaVRは、そんな思いから開発され、今では約400ものVR散歩コースが揃いました(2023年9月現在)。

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リハビリ意欲を引き出すだけでない
RehaVRの使い方にも注目

要介護の高齢者にとって、改善効果が見えにくい「現状維持」のリハビリは、決して楽しいものではありません。そこでRehaVRは、「楽しく取り組むためのリハビリツール」として開発されました。しかし、RehaVRの機能は「リハビリツール」だけではありません。

私は以前、機能訓練特化型通所介護事業所で勤務していたとき、利用者のリハビリ意欲を引き出すために、個々の利用者に合わせて様々な「仕掛け」を行いました。

例えば、剣道の有段者の方に、新聞でつくった棒でバランスボールをたたく運動をしてもらったり。小脳の運動失調がある方の手指のリハビリで、おもちゃのお札100万円をできるだけ速く数えるタイムアタックをしてもらったり。工夫すれば、やる気を引き出す方法はいくらでもありますが、セラピストが工夫のアイディアを捻りだす時間が限られているのも現場の課題の1つだと思います。

そこで、デジタル技術の力を活用すれば、工夫の幅を楽に広げることが出来る。RehaVRもそんなツールの一つ。

しかし、身体機能のリハビリや業務を効率化する目的だけのために、RehaVRの導入をお勧めしているのではありません。目を向けていただきたいのは、五感を刺激するコミュニケーションツールとしての使い方なのです。

RehaVRの可能性のイメージ画像です

通所介護でリハビリを担当していた頃、ハロウィーンの時には、水戸黄門の扮装で利用者のボクササイズの相手役に。楽しくリハビリに取り組んでもらうためのアイデアの引出はいくらでもあるんです。

RehaVRの可能性のイメージ画像です

触感、風など五感に訴える刺激で
RehaVRでの散歩をよりリアルに

VRの醍醐味は、目の前の景色の中にまるで自分自身がいるかのような没入感。RehaVRはそれに加え、展開していく景色を介護職など周囲の人とiPadによって共有できるという特徴があります。

東尋坊のVRで、崖に立ったとき扇風機の風にあたれば、体験はよりリアルになるはず。秋田犬と散歩するVRで犬の動きに合わせて、ぬいぐるみをなでてもらったり、神戸の夜景のVRを介護職と手を繋いで一緒に散歩したりするのもいいと思います。身体的接触によるオキシトシンの分泌は心をリラックスさせる働きがあり、心理的援助としても効果的です。

音や匂いなど、VR体験の深みを増し、こころへの刺激になる工夫は他にもいろいろ。RehaVRは、こころの”元気“につながるコミュニケーションツールとして、もっと活用できるのです。

そして、さらにこころを“元気”にするために、silvereyeがこれから取り組もうとしているのが、RehaVRの「回想法」への活用です。

RehaVRの可能性のイメージ画像です

「秋田犬と散歩」のコンテンツでは、秋田犬に見立てたぬいぐるみをなでてもらうことで触感が刺激され、よりリアルな体験につながる

RehaVRの可能性のイメージ画像です

過去を思い起こし、懐かしんで
こころを“元気”にする「回想法」とは

回想法は、もともとは高齢者を対象に人生の歴史や思い出を、受容的で共感的な良い聞き手に傾聴してもらう心理療法。過去の記憶、体験を思い起こすこと、懐かしむことは、感情を刺激し、認知機能を活性化することが期待されています。

今は、回想法を集団アクティビティとして行っている高齢者施設なども増えてきました。写真や音楽、食べ物など五感に刺激を与えるツールなども用いて語り合い、「共に過去を懐かしむ」「同じ時代を生きた者同士で思いを共有する」ことなどを目的に行われています。

映像の世界に没入する、RehaVRのリアルな体験を回想法に活用すれば、写真などのツール以上に強い刺激となると考えられます。『ここを旅行したときは…』『この町に住んでいた頃は…』など、VRでの散歩によって呼び起こされた懐かしい思い出を語ることは、こころにポジティブな刺激を与えることにつながります。

「だからこそ、RehaVRをもっと回想法に活用していきたい」

RehaVRの今後の展望として、個々の利用者の人生を振り返るオリジナルツールの制作を視野に入れ、こころの“元気”をさらに引き出していくことを考えています。

RehaVRの可能性のイメージ画像です

言葉のやりとりだけでなく、懐かしい物、写真、音楽などによって五感を刺激すると、古い記憶を呼び起こしやすい

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回想法で人生を再評価し、
「いい人生だった」と思えるように

集団アクティビティとしての回想法と違い、専門的な心理療法として行われる回想法は、一対一で行います。聞き手に語りながら人生を振り返り、人生で起きた一つ一つの出来事の意味を改めて考え、自分の人生を再評価していくのです。この人生の再評価に、RehaVRを活用していくことを、思案しています。

老年期のリハビリのゴールは、エリクソンが提唱した老年期の発達課題(コラム参照)である『自己統合』だと考えています。老年期は、脳梗塞などの大きな病気に加齢が重なり、健康レベルを若い頃に戻すことはできません。

そうした喪失体験の中では、絶望や孤立感、孤独感などのネガティブな感情を味わうこともあるでしょう。高齢者がそうしたネガティブな感情に傾いていくのを食い止め、『いい人生だった』と受け止めるのに有効なのが、回想法だと思うのです。

エリクソンの発達課題

心理学者のエリクソンは、人間は生涯をかけて発達していく存在であると考え、0歳の乳児期から65歳以上の老年期までを8段階に分けて、それぞれの段階での発達課題を示しました。エリクソンが示した老年期の発達課題は、「自己統合」です。

心身機能の低下や親しい人との別れなど様々な喪失を体験する老年期。過去には思い出したくない苦い経験もあるでしょう。それでも、培ってきた英知を持って人生の最終盤を歩み、自分の人生を「いい人生だった」と肯定的に受け入れることができれば、「自己統合」は達成されるのです。

RehaVRの可能性のイメージ画像です

RehaVRを「前意識」に働きかけ、
「自己統合」につながるツールへ

精神分析学者のフロイトが示したこころの仕組みを見ても、回想法は「前意識」というまだ意識されていない記憶や感情が、「意識」に上がるのを助ける働きがあると考えています。

回想法で『前意識』から『意識』への心の動きを活発にし、意識化された記憶や感情、体験を認識し、言葉で表現して聞き手に語る。そして、聞き手がその語りを受け止め、その体験や記憶の意味を、語った高齢者がより深く考えられるようなフィードバックをする。この繰り返しで、高齢者は自分の人生の価値を再評価できるのではないでしょうか。

RehaVRによる具体的な回想法ツールについては、現在はまだ構想の段階ですが、今後、『自己統合』に活用できるよう開発を進めていく考えです。RehaVRの今後に、ぜひ注目していただければと思います。

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フロイトによる「こころの仕組み」と回想法

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宮下公美子

介護福祉ライター

介護保険制度創設以来、介護分野で取材・執筆活動を行いつつ、社会福祉士、臨床心理士、公認心理師の資格を取得。成年後見人やクリニックの心理士など、援助職としても活動している。

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